地球は回る。時は流れる。今僕は君を想う。
田舎から大阪へと向かう最終電車。静かな車内は今日1日を勤めた人々がそれぞれの習慣へと眼差しをむける。車窓には反射された明るい車内の様子が映し出される。線路を車輪が流れる音だけが、ただひたすら静かに一定のリズムを刻む。今、この車内の空間に偶然居合わせた人々の顔を見、見ず知らずの巡り合せにむず痒さを感じる。それぞれの想いはどこに向うのか。涙で滲んだ文庫本。それでも自分は孤独ではないという確証が絆として心に刻まれた1週間を過ごした。多くの涙に包まれる中、親父は逝った。
早朝のワイドショーはいつもと変わらぬ和やかな雰囲気で秋のスゥィーツ特集で盛り上がる。日経平均株価がバブル後最安値を記録したとニュース速報が電子音で知らせる。いつからだろうか、世界中が数字に臆病になったのは。窓外をせわしなく駆け抜ける阪急電車が今日もぎゅうぎゅうに客を詰め込んでいる。締め切られたこの8畳にも満たない空間に息苦しさを感じ、ゆっくりと窓を開ける。冬支度を備え始めた秋の空気が静かに流れ込む。どれ程の悲哀が僕の心を締め付けようが、ただ無情にも連続し続ける『今』という時を感じる。深く、大きく深呼吸し、肺いっぱいに『今』を溜め込み、ゆっくりと吐き出してみる。そうやって『今』を楽しむ心を創り出す。
Breathe...
時は流れる。静かに、穏やかに。そうして時代は移り変わる。果てしなく広がる時間と空間の地図の上に、針を落としてできた穴程の微小な隙間に生を受けたこの偶然という名の運命を、『今』という時間の先端で受け止める。
君は生きているか…?
運命が過去の幾多もの選択肢が司ったただの偶然ならば、僕たちの出逢いには一体どれ程の価値があるのだろうか。宇宙の誕生から考えれば、僕は長く長く待ち侘びていた。『今』という時間に辿り着くことを。君と共に時を刻む事を。盛大なる感謝の気持ちを親父に捧ぐ。『永遠』という言葉を消滅が無いと説くならば、親父は僕の中に、そして親父を愛した全ての人たちの中にその命を捧ぎ、これからも永遠に生きてゆく。
早速、下宿に訪問者。新聞の集金のオバチャン。27歳の息子が東京にいるそうで僕を見ると息子を思い出すと言ってミカンを3つくれる。ふっくらとしたオレンジ色の皮がやけに愛らしい。悪くない。報道が不安な世の中を作り出しても、自分の中には『今』を楽しむ心がある。悪くない。小さな愛がこんな小さなミカンにも詰まっている。大事なのは愛する事を知る事、愛されている事を知る事。
月明かりが照らす静かな夜。
広大な宇宙の片隅で。
今、君は誰を想う?